精子提供体験談┃さくらさん23歳

精子提供体験談┃さくらさん23歳

子供を諦めた日の静かな絶望

夫はFTM(Female to Male Transgender)。彼との生活は楽しくて、充実していますが、どうしても乗り越えられない壁がありました。それは「子供」。彼は男性としての生殖器を持たないため、生物学的に私との間に子供を持つことは叶いません。

私は心の中でずっと「仕方がない」と自分に言い聞かせてきました。互いに大切に思う気持ちがあれば十分だと。でも、街で親子の姿を見るたび、友人の妊娠報告を聞くたび、胸の奥がきゅっと締め付けられるのを感じていました。諦めたつもりでいたけれど、消しきれない静かな絶望が、暗い影を落としていたのです。

偶然の出会い

そんなある日、人生を変える出来事が起こりました。私たちと同じように、FTMの旦那様を持つ夫婦と出会い、そして驚くことに、彼らには可愛らしいお子さんがいたのです。

私は驚愕し、思わず「どうやって?」と尋ねました。

答えは「精子提供」。その言葉は、私にとってとんでもない驚きでした。すぐにドナーについて尋ねましたが、「それだけは絶対に教えられない」と、強い口調で秘密を厳守していることを伝えられました。

ドナーが誰かは重要ではない。重要なのは、私たち夫婦が親になるという希望が、今、目の前に開かれたという事実でした。その日から、私の心は再び生き生きと動き始めたのです。

家族の壁

希望が見えたと同時に、私は人生で最も大きな試練に直面しました。精子提供を受け、FTMの夫と子供を育てたいと、実家の家族に打ち明けたときです。

「そんなことは許されない」「血のつながらない子なんて」「普通ではない」と、家族は猛反対しました。私を想ってのことだと分かっています。伝統的な価値観の中で、私の選択はあまりにも異質だったのでしょう。説得を試みましたが、理解は得られず、最終的に私は家族から勘当されてしまいました。

悲しくないわけがありません。辛くて、夜中に声を殺して泣いた日もありました。でも、その時、そっと私を抱きしめてくれたのは、夫でした。私たちは顔を見合わせ、「辛いけど、幸せになろう。誰にも邪魔されない、私たちだけの人生を歩もう」と決意を固めました。血縁や世間の常識よりも、私たち二人の気持ちと、築きたい家族の形が、何よりも大切だと。

選んだ道

家族を失うという大きな代償を払いながらも、私たち夫婦は前を向きました。

FTMの夫婦でも病院でAIDを選択することができます。しかし、私たちは諦めました。理由は、血液型も選べなければ、どんな人物なのかも知ることができなかったからです。

そして、サズカリをみつけ、理想のドナーと出会うことができました。サズカリが私達のような、一般的ではない夫婦にも子供をもつ選択肢を提供してくださっていることに感謝しています。

精子提供を経て、私はついに待ち望んでいた命を授かりました。今は安定期に入り、お腹の子供の胎動を感じるたび、幸福感で胸がいっぱいになったことを今でも思い出します。

勘当は辛い出来事でしたが、その経験が私たち夫婦の絆をさらに強くし、迷いのない選択を選び取る力をくれました。これからの人生は、夫と子供、私たち三人で家族を育んでいける。その確信があります。

メッセージ

今、同じように子供を持てず悩んでいる方へ。

絶望の中にいるとき、人は世界にたった一人だと感じてしまうかもしれません。でも、あなたは一人ではありません。私たちのように別の道を探し、希望を掴んだ人がここにいます。

「普通」の形に縛られる必要なんてありません。どんな形であれ、その家族に笑顔があれば、それは誰にも否定できない最高の家族です。精子提供は議論の多い手段ですが、選択肢の一つです。迷いや不安はあるでしょう。でも、どうか、あなた自身の幸せを、夫婦の未来を、一番に考えて行動する勇気を持ってください。

あなたの人生は、あなたとパートナーが思う通りに選んで良いです。その先に、必ず良い結果があると信じています。